施工体制台帳について
2021年05月10日
元請の立場になったら発生する義務の一つとして「施工台帳」の作成があります。今回はこの施工体制台帳について見ていきたいと思います。
目次
施工台帳とは |
元請業者に作成義務のある施工体制台帳 |
施工台帳とは、工事を請け負う全ての業者名、各業者の施行範囲、工期、主任技術者・監理技術者名を記載した台帳です。作成対象工事の場合、元請業者が作成する必要があります。
施工体制台帳の作成を通じて、元請業者に現場の施工体制を把握させることで、次のようなことを防止することが目的とされています。
➀品質・工程・安全などの施工上のトラブルの発生
➁不良不適格業者の参入や建設業法違反(一括下請負等)
③安易な重層下請(生産効率低下等)
▼施工体制台帳の作成例
出典:国土交通省 施工体制台帳、施工体系図等令和2年10月1日以降に契約する建設工事において使用する作成例
施工体制台帳を作成しなければならない工事 |
発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者は、その工事を施工するためにした下請契約の総額が4000万円(建築一式の場合6000万円)以上のなる場合、施工体制台帳の作成が義務付けられています。
ただし、公共工事の場合は、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入札適正化法)の規定により、下請契約の金額に関わらず、施工体制台帳の作成が必要です。また作成した施工体制台帳の写しを発注者へ提出することが義務付けられています。
▼施工体制台帳の作成対象工事
➀公共工事の場合は、発注者から直接請け負った建設工事を施工するために下請契約を締結した時 ➁民間工事の場合は、発注者から直接請け負った建設工事を施工するために締結した下請契約の総額が4000万円(建築一式工事の場合6000万円)以上となった時 |
施工体系図とは |
各下請負人の施工分担関係が一目でわかるように作成する図です。施工体制台帳の作成対象工事において、元請業者が作成しなければなりません。元請業者は、作成対象工事については、施工体制台帳と施工体系図を作成することとなります。
▼施工体系図の作成例
出典:国土交通省施工体制台帳、施工体系図等令和2年10月1日以降に契約する建設工事において使用する作成例
施工体制台帳の記載内容と添付書面について |
施工体制台帳に必要な記載事項は決められています。添付書類も必要なので忘れないようにしましょう。
施工体制台帳の記載内容 |
施工体制台帳には、作成建設業者の許可に関する事項、請け負った建設工事に関する事項、下請負人に関する事項、社会保険の加入状況、外国人建設就労者の従事の状況等を記載しなければなりません。
▼施工体制台帳の記載内容
元請負人に関する事項 |
・建設業許可の内容※すべての許可業種 ・社会保険の加入状況 ・建設工事の名称・内容・工期 ・発注者との契約内容(発注者の商号、契約年月日等) ・発注者が置く監督員の氏名等 ・元請業者が置く現場代理人の氏名等 ・配置技術者の氏名、資格内容、専任・非専任の例 ・外国人技能実習生・外国人建設就労者の従事の状況
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下請負人に関する事項 |
・建設業許可の内容※請け負った工事に係る許可業種 ・社会保円の加入状況 ・下請契約した工事の名称・内容・工期 ・下請契約の締結年月日 ・現場代理人の氏名等 ・主任技術者の氏名、資格内容、専任・非専任の別 ・外国人技能実習生・外国人建設就労者の従事の状況 |
施工体制台帳の添付資料 |
施工体制台帳を作成するだけでなく、作成した施工体制台帳に添付すべき書類がありますので、忘れないようにしなくてはなりません。元請業者の資料だけでなく、下請業者から交付を受ける資料もありますので、注意が必要です。
▼施工体制台帳に添付すべき書類
発注者との契約書の写し ・下請負人が注文者との間で締結した契約書の写し(注文・請書及び基本契約書又は約款等の写し) ※民間工事の場合で、作成建設業者が注文者となる下請契約以外の下請契約については、請負代金額を除いたも の(元請業者・一次下請業者間の契約書には請負代金額の記載が必要) ・元請負人の配置技術者が監理技術者が監理技術者資格を有することを証する書面 ※現場配置の専任を要する工事のときは、監理技術者資格者証の写し ・専門技術者等を置いた場合は、その者の資格を証明できるものの写し(国家資格等の技術検定合格証明書等の写 し) ・監理技術者の雇用関係を証明できるものの写し(健康保険証等の写し) |
施工体制台帳等のチェックリスト |
国土交通省は、公共工事において適正な施工体制を確保するため、各発注者や許可行政庁が施工体制台帳や施工体系図を活用し、工事現場の施工体制を確認できるよう「施工体制台帳等のチェックリスト」を公開しています。
これは公共工事の発注者や許可行政庁向けに作成されたものですが、施工体制台帳・施工体系図のチェックポイントが事細かく記載されていますので、建設業者が施工体制台帳と施工体系図の作成をする際に活用することもできます。作成の際にこれに基づいて作成・チェックを行えば、適切な施工体制台帳と施工体系図が完成すると思いますので是非ご活用ください。
▼施工体制台帳等のチェックリスト
1.施工体制台帳の写しのチェックポイント(事前確認)
出典:国土交通省「施工体制台帳等のチェックリスト」より
https://www.mlit.go.jp/common/001067897.pdf
施工体制の記載対象について |
施工体制台帳は、建設工事の請負契約における全ての下請負人が記載対象となります。一次下請業者だけでなく、二次、三次、それ以下の下請業者も記載対象となります。
施工体制台帳は、建設工事の請負契約を締結した業者のみが記載対象となりますので、建設工事の請負契約ではない資材業者や警備業者、運搬業者は記載対象となりません。
▼施工体制台帳の記載対象
無許可業者も記載するのか? |
施工体制台帳は「建設工事の請負契約における全ての下請負人」が記載対象ですので、下請負人が無許可業者であったとしても、建設工事の請負契約を締結している以上は記載対象となります。この場合の請負契約は当然、軽微な建設工事ということになります。
▼施工体制台帳の作成範囲
出典:国土交通省中部地方整備局「建設業法に基づく適正な施工の確保に向けて」
https://www.cbr.mlit.go.jp/kensei/info/qa/pdf/R0210/R0210_18.pdfを元に加工
公共工事では、警備業者等の記載が必要になることも |
公共工事の発注者によっては、施工体制台帳に警備業者等の記載を求めていることもあります。国土交通省の場合、「施工体制台帳に係る書類の提出に関する実施要領」において、「一時下請負人となる警備会社の商号又は名称、現場責任者名、工期」の記載を求めています。発注者によって取り扱いが異なる場合がありますので、公共工事の場合は、要領等を確認の上、施工体制台帳の適切な記載をするようにしてください。
出典:国土交通省「「施工体制台帳に係る書類の提出について」の一部改正について」平成13年3月30日国官技第70号・国営技第30号、令和元年6月4日最終改正国官技第40号・国営建技第2号大臣官房技術調査課長、大臣官房官庁営繕部整備課長通達(https://www.cbr.mlit.go.jp/architecture/kensetsugijutsu/pdf/sekoutaisei_kaisei.pdf)より
施工体制台帳作成対象工事を請け負った下請業者が作成すべき書面について |
施工体制台帳の作成は元請の義務ですが、下請にも「再下請請負通知書」という書類を作成する必要があります。
再下請負通知書とは? |
施工体制台帳の作成対象工事では、下請負人は、さらにその工事を再下請負した場合、「再下請負通知書」を作成して、元請業者に提出しなければなりません。
作成する再下請負通知書は施工体制台帳と同様任意の書式で大丈夫ですが、必要な事項が記載されていなければなりません。
▼再下請負通知書の記載内容
➀自社に関する事項 ・名称、住所(自社が建設業者の場合は許可番号) ・健康保険等の加入状況 ➁自社が注文者と締結した請負契約に関する事項 ・工事名称、請負契約を締結した年月日、注文者の名称 ・外国人技能実習生及び外国人建設就労者の従事の状況 ③自社が下請契約を締結した再下請負人に関する事項 ・下請負人の名称、住所(下請負人が建設業者の場合は、許可番号、施工に必要な許可業種) ・健康保険等の加入状況 ➃自社が下請負人と締結した建設工事の請負契約に関する事項 ・工事の名称、内容、工期、請負契約の締結年月日 ・自社が監督員を置く場合は、監督員の氏名等 ・下請負人が現場代理人を置く場合は、現場代理人の氏名等 ・下請負人が建設業者の場合は、その主任技術者の氏名、資格、専任の有無 ・下請負人が専門技術者を置く場合は、その専門技術者の氏名、その者がつかさどる工事の内容、資格 ・外国人技能実習生及び建設就労者の従事の状況 |
▼再下請負通知書の記入例
出典:国土交通省関東地方整備局「建設工事の適正な施工を確保するための建設業法(令和3.3版)」
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000699485.pdf
関係者への周知義務 |
施工体制台帳作成対象工事である場合は、そのことを関係者へ周知しなければなりません。元請業者は現場内の見やすい場所に「再下請負通知書の提出案内」を掲示する必要があります。また、下請業者に工事を発注する全ての建設業者は、下請業者に対して、元請業者の名称、再下請負通知書が必要な旨、再下請負通知書の提出先を書面で通知する必要があります。
▼現場への掲示文例
出典:国土交通省関東地方整備局「建設工事の適正な施工を確保するための建設業法(令和3.3版)」
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000699485.pdf
▼下請業者への書面通知例
出典:国土交通省関東地方整備局「建設工事の適正な施工を確保するための建設業法(令和3.3版)」
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000699485.pdf
施工体制台帳・再下請負通知書の作成手順 |
施工体制台帳・再下請負通知書の作成手順は次のとおりです。
➀元請業者
元請業者は、作成対象工事となった場合、遅滞なく、一次下請業者に対して施工体制台帳対象工事である旨の書面通知を行い、工事現場の見やすい場所に再下請負通知書の提出案内を掲示します。そして、施工体制台帳・施工体系図を整備します。
➁一次下請業者
一次下請業者は、元請業者に対し、再下請負通知書及び添付書類を提出し、二次下請業者に対して施工体制台帳作成対象工事である旨の書面通知を行います。元請業者は一次下請業者から提出された再下請負通知書と、自ら把握した情報に基づいて施工体制台帳・施工体制図を整備します。
③二次下請業者
二次下請業者は、元請業者に対し、再下請負通知書及び添付書類を提出(もしくは一次下請業者を経由して提出)し、三次下請業者に対して施工体制台帳作成対象工事である旨の書面通知を行います。元請業者は二次下請業者から提出された再下請負通知書と自ら把握した情報に基づき施工体制台帳・施工体系図を整備します(再下請負通知書を添付することで整備することも可)
➃三次下請業者以下
二次下請業者と同様です。
▼施工体制台帳作成のフロー図
出典:国土交通省関東地方整備局「建設工事の適正な施工を確保するための建設業法(令和3.3版)」
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000699485.pdf
工事現場での掲示について |
工事現場においては施工体系図の掲示が必要です。以下で詳しく見ていきます。
施工体系図の掲示 |
施工体制台帳の作成対象工事では、元請業者は、各下請負人の施工分担関係がわかるように、施工体制台帳を基に施工体系図を作成し、掲示しなければなりません。施工体系図は工事の期間中の掲示が義務付けられています。公共工事については工事現場の工事関係者が見やすい場所及び公衆が見やすい場所に、民間工事については工事関係者が見やすい場所に掲示する必要があります。
▼施工体系図の掲示
出典:国土交通省関東地方整備局「建設工事の適正な施工を確保するための建設業法(令和3.3版)」
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000699485.pdf
なお工事の進行により、記載すべき下請負人に変更があった場合、速やかに掲示している施工体系図の記載も
変更しなければなりません。
建設業の許可票その他掲示が必要な標識 |
建設業法では施工体系図の他に、建設業の許可票の掲示も求めています。建設業の営業及び建設工事の施工が、建設業許可を受けた適法な建設業者によってなされていることを対外的に明らかにするため、公衆の見やすい場所への掲示が義務付けられています。
▼工事現場に掲示する建設業の許可票
建設業の許可を受けた建設業者が標識を建設工事の現場に掲げる場合
出典:国土交通省関東地方整備局「建設工事の適正な施工を確保するための建設業法(令和3.3版)」
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000699485.pdf
また、他法令により工事現場への掲示が必要となる標識がありますので、掲示が必要な標識の例を次の表に挙げます。
▼掲示が必要な標識の例
標識 | 掲示場所 |
施工体系図 | 工事関係者が見やすい場所及び公衆の見やすい場所 |
建設業の許可票 | 公衆の見やすい場所 |
解体工事業者登録票 | 公衆の見やすい場所 |
建設業退職金共済制度適用事業所の現場標識 | 現場事務所や工事現場の出入口など見やすい場所 |
労災関係保険関係成立票 | 事業所の見やすい場所 |
施工体制台帳作成建設工事に関する現場掲示 | 工事現場の見やすい場所 |
道路占用許可表示板 | 占用物件(場所)の見やすい場所 |
作業主任者 | 作業場の見やすい場所 |
緊急時連絡表 | 事務所、詰所等の見やすい場所 |
産業廃棄物保管場所の掲示 | 保管施設の出入り口等、見やすい場所 |
安全管理組織図 | 安全衛生推進者を選任している場合は、作業場の見やすい場所 |
石綿除去等工事及び事前調査結果の掲示 | 工事関係者が見やすい場所及び公衆の見やすい場所 |
令和2年施行改正建設業法「標識の掲示義務の緩和」 |
これまで工事現場には工事に携わる全ての建設業者の建設業の許可票を掲げなければならなかったものが、令和2年の改正建設業法施行により、建設業の許可票の掲示義務が元請業者のみとなります。
元請業者のみが建設業の許可票を掲示すれば、下請業者の掲示が不要となりますので、特に大きな規模の工事現場では、建設業の許可票の掲示だけでも場所を取る上に、掲示作業が手間でしたが、施工法の施行により、そのような負担が軽減されることとなります。
工事が終わった後の施工体制台帳について |
施工体制台帳の備え置き |
施工体制台帳は、工事を請け負う全ての業者名、各業者の施行範囲、工期、主任技術者・監理技術者名を記載した台帳ですが、この台帳を作成した場合、建設工事の目的物を発注者に引き渡すまでの期間、工事現場ごとに備え置く必要があります。
なお請負契約の目的物の引き渡しをする前に契約が解除されたこと等により、請負契約に基づく債権債務(目的物を完成させる債務とそれに対する報酬を受け取る債権)が消滅した場合は、債権債務の消滅まで備え置けば良いとされています。
施工体制台帳の提出・閲覧 |
公共工事においては、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入契法)の規定により、施工体制台帳の写しを発注者い提出する必要があります。また、民間工事においては、発注者から請求があった場合、施工体制台帳を閲覧に供しなければなりません。
▼施工体制台帳の提出・閲覧
施工体系図については、掲示が義務付けられているだけで、提出の必要はありません。
施工体制台帳の保存 |
建設工事が完了し、目的物を発注者に引き渡した後は、建設業法第40条の3の「帳簿」の添付資料として5年間保存する必要があります(請負契約の目的物の引き渡しをする前に契約が解除されたこと等により、請負契約に基づく債権債務が消滅した場合は、債権債務の消滅した時から5年間保存)。そのため、工事完了後も施工体制台帳を完全に破棄することはできません。
なお帳簿への添付は、施工体制台帳の一部とされていますので、施工体制台帳の作成時に、あらかじめ、帳簿に添付する事項を記載した部分と他の事項が記載された部分を別紙に区分して作成しておくと、帳簿への添付を楽に行うことができます。
▼帳簿へ添付する事項
➀当該工事に関し、実際に工事現場に置いた監理技術者の氏名と、その者が有する監理技術者資格 ➁監理技術者以外に専門技術者を置いたときは、その者の氏名と、その者が管理を担当した建設工事の内容、有する主任技術者資格 ③下請負人(末端までの全業者を指しています。以下同じ。) の商号・名称、許可番号 ➃下請負人に請け負わせた建設工事の内容、工期 ⑤下請業者が実際に工事現場に置いた主任技術者の氏名と、その者の主任技術者資格 ⑥下請負人が主任技術者以外に専門技術者を置いたときは、その者の氏名と、その者が管理を担当した建設工事の内容、有する主任技術者資格 |
▼施工体制台帳の取扱い